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「現世での移し身をなくし、声なき声を発し、其の存在を叫ぶもの…」 部屋の空気が張り詰める。 「そちらの方。聞きたいことがあるのじゃが…」 彼は部屋の一点を見つめ、何かと話しだした。 「苦しいとな?…そぅじゃろぅ…なぜあの世へ上がらなんだのじゃ?…」 ガタッ!  バダバタバタ! 天井裏を何かが走り、風もないのにガタガタと窓が震えた。 「わしの質問に答えたら、おぬしを成仏させてやろう。上へあげてやるぞ。」 窓の震えが激しさを増す。 「…まわりに余計なもんがひっついておるの…それらがおぬしらのあの世行きを引き止めておるな?」 天井裏を走る音は彼の上に集まり、地団駄を踏んでいるかのように騒いだ。 窓の音も大きさを増す。 「邪魔をするか…仕方ないのぅ…」 彼はゆっくりと息を吸い込み、両手を開く。 「…ふっ!」  ぱ―――――ん! 小さく強く息を吐くと同時に、柏手を打った。    ガダガダッ  ドンッ! 柏手に驚いたかのように、暴れ回っていた音が反応した。  ぱ―――――ん! 彼は二発目の態勢をとると、音を響かせた。 その音から今度は逃げるように、騒ぎが静かになってきた。  ぱ―――――ん! 三発目には静かになった。 「邪魔なものはいなくなった。教えてくれるか?」
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