1000人が本棚に入れています
本棚に追加
「茉森君。この後、少し時間ありますか?宿題の答えを教えて下さい」
今日は秀人が家に来る。
「少しなら大丈夫です」
「それでは掃除終了後に英語科研究室に来て下さい。場所は分かりますね」
「はい!」
秀人が返事をした。
「西園寺君。私は茉森君に尋ねたんですよ」
「はい。俺が漣くんを連れて行きます」
秀人は当然の事のように胸を張った。
「西園寺君は勘違いをしていませんか?」
「どこか間違ってますか?」
秀人には東山の言わんとすることがわからない。
「この学校は、バリアフリー化が進んでいると言ってもまだまだ万全ではありません」
「だから俺が行くんです。小学校の時も、移動はずっと俺が付き添っていました。これからもそうします。他人の手は借りません!」
漣が受けた仕打ちを思い出しただけで怒りがこみ上げてきた。
感情が高ぶって冷静さを欠いたかもしれないが、言いたいことは伝えておきたかったのだ。
「君は、この先もずっと茉森君に付き添っていくのですか?この先というのは、学校を卒業して社会人になってもそうするのかってことですよ」
「先のことではなく今が大切なんです!今を無視して未来なんて語れません!」
東山まで突き放すようなことを言うのか。
また漣が自分の殻に閉じこもってしまうではないか。
なぜ教師たちはみんなこうなのか。
やるせない涙が秀人の頬を伝いはじめた。
「茉森君もいずれは社会に出ます。その時に必要なのは、困った時に助けてくれる、通りすがりの人達の協力です。黙っていても、誰も助けてはくれませんよ。茉森君が自分でお願いをしなければいけないのです」
「でも…」
秀人は漣を見た。
俯いて小さく丸まっている。
自分から他人に声を掛けるなんて、漣には出来ないだろう。
東山の言うことは正しいのだろうけど、どこか理想論に聞こえる。
「西園寺君の行いは立派ですが、君が先回りして何でも手を出してしまえば、茉森君は君を頼って、一人では何も出来ない人になってしまいます。今だけの手助けは茉森君の為にはなりません。どのように付き合えばよいのかしっかり考えなさい」
秀人は何も言えずに涙を拭った。
最初のコメントを投稿しよう!