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「あっ、おいら父ちゃんと約束があるから先に帰るね」
「ちょっと待って下さいよ。途中まで一緒に帰りましょう」
拓真は下校を狙って慧との距離を縮めるつもりだ。
秀人と元気には、慧と拓真が微笑ましく見える。
「タクは織作君がお気に入りだよね」
「分かりやすいよな」
「あのね。"シューちゃん"って呼んでいい?」
元気は恥ずかしそうに言ってみた。
「好きに呼んでくれていいよ」
「シューちゃん。小さいって言ってごめんね」
「俺も騒がしいって言ってごめん」
秀人と元気はお互いに笑顔を向けた。
「シューちゃん、ありがとうね。シューちゃんが漣くんをイジメから助けてあげたんでしょ」
元気は潤んだ瞳をキラリとさせて、柔らかい笑みを浮かべた。
「いや。俺も最初は漣くんに声を掛けられなかったんだ。他のヤツらと一緒だよ」
何故、声を掛けなかったのか?
見ないフリをしてしまったのか…。
許すことの出来ないあの頃の自分。
「でも、シューちゃんが助けてくれたんだよ」
「有栖川くん…?」
「シューちゃんがいなかったら、漣くんは今でも一人だったんじゃないかな?それに、薫風に来なかったでしょ。そしたら漣くんに会えなかったんだよ。やっぱりシューちゃんのおかげだよ。シューちゃんありがとう!」
「有栖川君……。俺の方こそ、ありがと」
漣に対する罪はこの先も消えない。
逃れることは自分自身が許さない。
だが元気によって心が救われたような気がした。
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