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「秀人くん、ごめんね」
下校途中の秀人と漣。
秀人は漣の膝に自分のカバンを乗せ車椅子を押す。
「何が?」
漣の斜め上から秀人が声を掛ける。
漣も背が低いが、学年一小さい秀人よりも目線が低くなった。
「東山先生が言ったこと」
「ああ…。気にすんなって言っただろ」
漣にはこう言ったが、秀人も東山に言われたことが引っ掛かっている。
漣とどのように接すれば良いのかなんて分からない。
社会に出るのはまだまだ先のこと。
中学に入学した今でなくても、考える時間はたっぷりある。
焦って答えを出す必要は無い。
秀人はそう考える。
「俺…車椅子で生きていくんだよね…。」
生まれた時から両足は自由ではなかった。
いずれ歩けなくなる覚悟はできていた。
それでも実際に車椅子に乗るようになると、目の前の世界の変化に圧倒されるばかりだ。
目線が下がるだけで全ての物が大きく見える。
急に自分が無力な弱い存在に思えて仕方ない。
「ちゃんと生きていけるかな…。学校にいる間になんでも出来るようにならなくっちゃね」
身体を捻って秀人にキレイな笑顔を見せる。
「無理に笑わなくてもいいよ」
笑顔の向こう側の顔。
不安に押し潰されまいと無理に笑う漣が秀人には見える。
「俺たちまだ中一だ。卒業までに考えればいいんだよ。経験を積んで力をつければ、きっと正しい方向に進めるよ」
「秀人くんは大人だね」
頼りない秀人でさえも、漣には頼もしく感じられる。
青春とは迷いの連続だ。
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