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「タクの家どこ?」
「三軒茶屋です」
「渋谷まで一緒だね」
「どこですか?」
「おいらは井の頭公園」
「あっ、知ってます。ボート有りますよね」
「あったりぃ」
駅に向かう慧と拓真。
お互い大きめの制服が新入生であることの証明。
金曜日の午後。
渋谷行きの電車は混んでいる。
慧と拓真は窓際に立った。
窓から見える景色が新鮮だ。
「これから6年間、この景色を見るんだね」
「その頃にはもっと大きな建物も増えてるんでしょうね」
拓真はガラスに映った慧を見つめる。
窮屈な毎日から抜け出せたのは、去年の夏に慧と出会ったから。
慧の優しい寝顔に安らぎを感じた。
自分自身で巻きつけた鎖から、自分自身を解放させる勇気をくれた。
絶対的な安心感を手に入れた。
拓真は慧の周りの空間が好きだ。
そこは慧だけの世界だったが拓真を迎えてくれた。
優しくて、温かくて、清らかで、その中に凛とした正しさが見える。
この美しい物を手放したりしない。
拓真は初めての誓いをたてた。
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