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「タクは弁護士になるの?」
「本当はどうでもいいんですけど、弁護士になるって、おじいさんとお父さんに言っちゃったんです」
(あなたに会いたかったからと言えば、喜んでくれますか?)
「どうして?」
「薫風に来たかったからです。ナイショですけど、お父さんは薫風の試験に落ちたんですよ」
(やっぱり言えない…。)
「受験したいって言いにくかったんだね」
「だから、おじいさんに、弁護士になるためにたくさん勉強したいから、薫風に行きたいって言っちゃったんですよ」
「悪い子だね」
ふにゃっと笑う慧を見つめる拓真。
(悪い子にしたのはあなたでしょ)
「どうして薫風に来たかったの?」
「ブランドだからです」
「タクって可愛い顔してんのに腹黒いね」
「ヒドいですよ」
拓真はこの時に“腹黒キャラ”を演じることにした。
慧が描く拓真を演じることが、今までの自分よりも好きになれそうに思う。
「おいらも悪い子だよ」
慧が窓の外の景色を眺めながらつぶやく。
「どこがです?」
「おいらは父ちゃんが言うとおりに教育大に行って薫風に来たけど、何も自分で決めてないんだよね」
拓真には慧の言いたい事が分かるような気がする。
お互いに親の期待に応えようと思うのだが、それが自分にとって本当に進みたい道なのか分からない。
それなのに、その道を歩き出してしまった。
「二人とも悪い子ですね」
拓真は自分自身に向けて“悪い子”と言った。
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