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東山は外を見た。
「遅くなってしまった」
新学期を迎えてから多忙で、今日もジムに行けそうにない。
わずか20人のクラスだが、東山にとって最初の担当クラス。
今までの2年以上に思い入れも強い。
今はまだ幼い少年達だが、彼らが高校を卒業する頃には自分より大きくなる生徒もいるだろう。
この学校を巣立つ日までの6年間、彼らの成長を見守るのが楽しみだ。
生徒カードに目を通す。
「有栖川元気。落ち着きがないな。相手の気持ちを汲み取る優しさは最大の武器だ」
東山は元気の面接官だった。
緊張した表情の元気は深呼吸をして「1…2…」と数え始めた。
「緊張していますか?」
「大丈夫です!」
ニコッと笑った笑顔が印象的だった。
「この学校に入ったら何がしたいですか?」
「友達をたくさん作りたいです」
「できるといいですね」
「もう、できました。昨日の筆記試験の時に出会いました。たぶん、ずっと付き合える一生の友達です」
また、ニコッと笑った。
入学式の日、廊下に並ぶ元気に声を掛けられた。
「東山先~生。面接の時に言ってた友達も合格してました」
「ほお。良かったですね」
「誰か知りたい?」
「教えてくれますか?」
「あのね。茉森君です」
その時の太陽のような笑顔が忘れられない。
「織作慧。物事の本質を見抜く才能は大切にしたい。しかし、いつも眠そうだ。ふっ」
東山は笑った。
慧とは合格発表の会場で会った。
慧は泣きじゃくる男の子にハンカチを渡した。
東山は慧に声を掛けた。
「いいのですか?ハンカチは戻ってこないかもしれませんよ」
「いいよ。だって嬉しくて泣いてるんだもん。おいらも、ハンカチも幸せだよ」
そう言って、ふにゃっと笑った。
東山には、他人を思いやれる慧の本当の強さと優しさが見えていた。
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