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「西園寺秀人。品の良さは魅力的。少し打たれ弱い。オヤジギャグに注意」
秀人と最初に出会ったのは去年の夏だった。
東山は夏休みを利用して、学生時代にホームステイをしたイギリスへ旅行に出掛けた。
ヒースローから成田への機中、東山の前のシートには両親と息子の3人家族が座っていた。
会話から数年ぶりに日本へ帰国する一家であることが想像できる。
息子は小学3~4年生くらいであろうか。
小柄で目がくりっとした少年だ。
「薫風中学って難しいの?日本じゃ、みんな塾に行くんでしょ?俺も行くの?」
“薫風中学”というキーワードにより、秀人の印象が強かった。
とにかくよく喋る。
所々会話の中に古いギャグが挟まっている。
日本のギャグをイギリスで収集するまでのタイムラグなのかもしれない。
それにしても完全なオヤジギャグばかりだ。
おかげで成田まで退屈せずに過ごせた。
あの時の小柄な少年に自分のクラスで再会するとは。
東山は不思議な縁を感じるのであった。
「新納拓真。可愛い顔に似合わず毒を吐く。秘密主義」
東山はプッと笑った。
入学式の日の出来事を思い出した。
「東山先生!」
呼ばれて振り向くと拓真が立っていた。
「お願いします。僕が慶明出身だということを内緒にして下さい」
「どうしてですか?」
「理由は教えられません。プライベートなことです。個人情報の漏洩は社会的信用の失墜になりますよ」
拓真は仔犬のような可愛い顔で見てくる。
「分かりました。誰にも言いません」
東山は優しく微笑んだ。
「ありがとうございます」
拓真は礼を言うと走って行った。
東山は拓真の父を何度かテレビで見たことがある。
息子が私立小学校に通っていると紹介していた。
「やっかいな子だな」
拓真の印象だった。
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