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生徒カードをめくる。
「茉森漣…」
中学部に移り初の担任クラスを受け持つことになった時、校長から漣について聞かされた。
障害を持った生徒は初めての経験である。
担任として、漣とどのように接すれば良いのか。
東山にとっても手探り状態の毎日である。
東山は漣に宿題を出した。
「失礼します」
漣は深呼吸をして英語科研究室に入った。
教師達の視線が一斉に漣に向けられる。
「1年1組の茉森君です。お世話をかけることもあるかと思いますが、よろしくお願いします」
東山は他の教師達に丁寧に頭を下げた。
「茉森君も挨拶しなさい」
「茉森漣です。よろしくお願いします」
-パチパチパチパチ
拍手が起きた。
「茉森君、入学おめでとう」
「よろしくね」
教師達は笑顔で漣を歓迎してくれた。
漣の顔が明るくなった。
中学にも居場所は無いと思っていたが、こうやって温かく迎えてくれる場所があった。
「息抜きしたくなったら、いつでも来なさい。コーヒーくらいならあるぞ。コーヒーは飲めるか?」
そう言ったのは英語科主任の嵯峨野だ。
「お砂糖とミルクが無いと飲めません」
漣は嵯峨野にキレイな笑顔を見せた。
今はこんなに初々しい漣でも、コーヒー目当てに英語科研究室に入り浸るようになるのだが、それはもう少し先の話である。
「東山先生。宿題ですが、まだ出来ていません。でも、きっと見つけます。何がしたいのか。その為にはどうすれば良いのか。何の為にこの学校に来たのか。やっと見えてきた気がします」
キリッとした瞳で語った。
「分かりました。これから探しましょう。6年間かけてじっくり考えて下さい。君なら大丈夫ですね」
漣は東山との距離を少し近付けたように思った。
「ところで、部活は何にするか決めましたか?」
中学部は全員どこかのクラブ活動に入るのが決まりだ。
漣は美術部を希望しているが秀人と離れる勇気がない。
「まだ決めてません」
「それならサッカー部に入りませんか?マネージャー募集してますよ」
東山は漣のカードに目を戻した。
「茉森漣。目に力がある。彼はきっと、自分の人生を切り開いて望む物を手にするだろう。それが何か楽しみだ」
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