ギュウしてっ!

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1限目の教師が入ってきた。 教師は教卓に着くと漣を見た。 中年の数学科主任だ。 「入学おめでとう。数学担当の福島です。最初に名前を呼ぶので、呼ばれたら元気よく手をあげて立ちなさい。茉森君はそのままでいいから」 「え?あ。はい」 漣は下唇を噛み、ふてくされた顔で前を見据える。 一見すると福島は唇の端を上げて笑顔を作っている。 しかし目は笑っていない。 生徒相手に営業スマイルだ。 「最初は有栖川君」 「はい!」 「おお!元気だな。名前通りだ」 いつも名前通り元気の良さを誉められる。 それが魅力だ。 漣はチラッと元気の方に視線を向けた。 漣の視線に気づいた元気は満面の笑顔で手を振ったが、またしてもそっぽを向かれた。 どんなに考えても元気には不機嫌にしている理由が思い当たらない。 朝、顔を見た時からずっとこんな感じなのだ。 「茉森君」 「はい」 福島は漣をマジマジと見てこう言った。 「大変だろうけど頑張りなさい。みんなも茉森君を助けてあげなさい」 漣は福島の言葉に嫌悪感を覚えた。 それでなくても今朝は機嫌が悪い。 不機嫌の理由は元気にあるのだが当人はまだ気付かない。 ムシャクシャとしたまま1限目が終了した。
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