ギュウしてっ!

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「漣くん。ねえ。漣くん」 元気は漣の名前を呼ぶが、漣は耳を塞いで机の上に突っ伏してしまった。 「ヤダ!有栖川くんなんか嫌いだぁ!」 「漣くん…」 理由が分からずオロオロとする元気。 慧は漣の呼吸に合わせて優しく背中を叩き始めた。 「漣くん。大丈夫だからね」 漣が何かを訴えているのは分かるのだが、問い正すような事はしない。 漣が落ち着くように、ただ背中を叩いてやるのだった。 漣は机に突っ伏したまま顔を左に向け慧を見つめる。 うっすらと涙を溜めた瞳が、キレイな顔立ちをよりキレイに見せている。 慧は優しく微笑んであやすように背中を叩き続けた。 少しずつ落ち着きを取り戻した漣は、ようやくいつものキレイな笑顔を見せてくれた。 慧が笑顔で漣の涙を拭って頭を撫でてやると、漣は小さな子供のような可愛い笑顔を返した。 漣が背中を向けて机の上に伏せているので、漣の様子は元気達には分からない。 慧は元気達に向かって柔らかい笑みを送った。 拓真と秀人は顔を見合わせてホッとする。 元気も安堵して漣の肩をチョンチョンと突っついた。 「れ~んくん!」 「……」 「れんくぅ~ん!」 漣は元気に背中を向けたまま、ふくれっ面で言った。 「有栖川くんなんか嫌いだよ」 まだ機嫌は直っていないようだ。 一日中こんな調子だった。 4時間全てが教科担当の挨拶で、決まって「頑張れ」と漣に声を掛けた。 漣の機嫌は大きく傾いたままだ。
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