ギュウしてっ!

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「どうする?帰る?」 今週いっぱいは午前中だけの授業なので、掃除が終われば自由だ。 「俺、学食寄ってく。お腹すいちゃって家までもたないもん」 「おいらも学食行く」 「あっ、俺も行きます」 拓真は慧とラブラブランチを楽しむつもりなのだ。 「俺たちは帰るわ」 一日中不機嫌な漣の顔を見ながら秀人が言う。 「ジモティはいいですよね。そうだ!俺たちってどうせ渋谷に出るんだから、渋谷で食べましょうよ」 「タク。それいいねぇ。でも、有栖川くんは渋谷の定期じゃないでしょ?」 「行く!行く!渋谷でランチってオッシャレぇ~。あ。でも俺、今日お金持ってないわ。わりぃ。また今度、誘って!ごめんね!」 「…学食行く」 漣が口を開いた。 「あ。喋った」 今日は朝から『有栖川くん嫌い』しか聞いてなかったので、秀人は久しぶりに漣の声を聞いたような気がした。 「秀人くんは帰っていいよ」 「えっ!?ちょっと漣くん、どうしたの?」 「べつに。怒ってないから」 「やっぱり怒ってるじゃないか!ナニ?有栖川くんに何かされたの?俺にも言えないこと?」 秀人は漣の目をしっかりと見つめるが、漣の方が視線を外した。 「漣くん!」 秀人は漣の肩を掴んで正面を向かせた。 「何もされてないよ」 「だったら、どうしていつまでもスネてるの?みんながどんだけ漣くんのことを心配してるか分かってるんだろ!」 漣は涙目で元気を見つめる。 「してくれないからさ…。」 小さな声でそう言うと下を向いてポロポロと涙を零し始めた。 「はあ?わけ分かんねぇ~!!」 秀人はくしゃくしゃと髪を掻きむしった。
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