ギュウしてっ!

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「おっしゃー!学食までぶっ飛ばすよ~。漣くん、落ちないようにしっかり掴まっててね」 「了解っ!」 元気は猛スピードで廊下を走り出した。 「ちょっと!有栖川くん!危ないからやめてぇ」 秀人も後を追いかける。 「おいらたちも走っちゃう?」 「はい!」 慧と拓真まで走り出した。 漣は不思議な感覚に酔っている。 景色が猛スピードで過ぎていく。 頬に当たる風が気持ちいい。 これって…? もしかして…? 「はい!到着ぅ~!漣くん大丈夫?怖くなかった?」 「ぜんぜん。あのさ。今、走ってたんだよね?」 「ほぇっ?」 「走ってたんだよね?ね?ね?」 「そうだよ。漣くん走ったんだよ」 駆けつけた秀人が笑顔でそう告げると、漣の顔が太陽のように輝いた。 「有栖川くんありがとう。生まれて初めて走ったよ。スゴい!スゴい!」 「ホント?スゴイね!スゴイ!!スゴイ!!!」 漣の感動が伝わり元気も興奮気味だ。 「じゃあ、次は一人で走る練習しようね。ご飯食べたら特訓ね!」 「はい!コーチ」 背筋をピーンと伸ばして左手を高くあげた。 「おー!気合い入ってるね!!」 「その前に。有栖川くんっ!もう一回ギュウしてよ!」 「えっ!?ここで?ちょっと人が多くない?」 周囲を見回した元気は赤くなった。 「ダーメ!朝してくれなかったバツだよ」 漣は両手を前に出して待っている。 「もぉ~。しょうがないなぁ」 照れながらも元気はありったけの力を込めて漣を抱きしめた。 「ふふ。幸せぇ」 「いつまで青春してるんですか?先に学食に入りますよ」 拓真が呆れ顔で声を掛けた。 「は~~い」 「お先にどーぞー」 元気と漣はまだギュウギュウしている。 「やれやれ」 くっついたまんまのバカ2匹をその場に残して拓真が後ろを振り返ると…。 「れんふぅぅぅぅぅぅん…」 一難去ってまた一難。 愛しの漣を元気に奪われた秀人が呆然と突っ立っていたのだ。 「はいはい。ヘタレさんもギュウしてあげますよ」 拓真は秀人をギュッと抱きしめてやった。
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