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「いただきま~す」
「この前も唐揚げカレーでしたよね。今日も唐揚げ定食って飽きないんですか?」
拓真らしいチェックが入る。
「ぜ~んぜん。ねっ。漣くん」
相変わらず唐揚げを口いっぱいに頬張る元気。
一方の漣は食事に手をつけてない。
「漣くん、食べないの?お腹痛い?」
慧が優しく声を掛けた。
「違うの。あのね…」
何かを言いかけて上目遣いで秀人を見る。
「どうした?あっ!!」
「え!?シューちゃん、ナニ?」
何のことか気になる元気は、箸をくわえたまま秀人と漣の顔を交互に覗き見る。
「漣くん。恥ずかしいことでもなんでもないんだよ。気にするなら自分で言わなきゃダメだよ」
秀人は漣の顔を覗き込んだ。
漣は暫く下を向いていたが、少し視線を上げてみんなの顔を見た。
数秒の沈黙の後、再び下を向いてしまった。
「漣くん。勇気を出して」
秀人が漣の顔を覗き込み、小さく握った拳を漣に向ける。
「うん…。あのね。お箸の持ち方がヘンなんだけど、笑わないでね」
「俺もヘンだよ。いつも母ちゃんに怒られてるもん」
「もっとヘンだと思うけど、絶対に笑わないでね」
「笑わないから、早く食べなさい!」
拓真はそう言うと珍しく微笑んだ。
漣は軽く握るようにして箸を持った。
指に力が入りにくいので箸で物を掴むことが出来ない。
フォークのように突き刺すか、スプーンのように掬うかのどちらかで食べ始めた。
「漣くん…ごめんね。気づかなかった」
元気たちは足ばかりに気をとられて、右腕には気づかなかったのだ。
「右手の指も上手く動いてくれないんだ。俺の身体って気持ち悪いよね。嫌いになった?」
すがるような視線を元気に向ける。
「ぜ~んぜん」
元気はニッコリと笑い漣の肩を引き寄せた。
「織作くんとタクも漣くんが好きだよね!」
「うん。おいら漣くんが好きだよ。気持ち悪くないからね」
「俺もです。好きですよ。漣くん」
「ありがとう」
漣の顔が明るくなった。
慧たちは秀人から聞かされたイジメの話を思い出した。
不自由な手足がイジメの対象であったことくらい容易に想像がつく。
漣本人が自分の身体を『気持ち悪い』と言わなければならないほど、イジメによって漣の心に刻まれた傷が大きすぎるのであろう。
慧も拓真も元気も、一人でイジメに耐え抜いた漣がいじらしくてならない。
そして、たまらなく愛しい。
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