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「今日はごめんなさい。みんなに心配かけちゃったよね」
漣は不機嫌にしていたことをきちんと謝っておきたかった。
「おいらは平気だけど、東山先生には謝ったほうがいいね」
「うん。みんなが立ってるのに自分だけ座っているのって、ちゃんと挨拶してないみたいでずっとイヤだったんだ。でも、気持ちが大切なんだって教えてもらったから嬉しかったよ」
「じゃあ、その気持ちも東山先生に伝えなきゃね。でも福島には謝る必要ないからね」
慧は眉をしかめた。
生徒に無機質な笑みを向ける福島の軽薄さは受け入れ難い。
上辺だけを取り繕う偽善者の顔だ。
それは漣も感じ取っていた。
「みんな頑張れって言うんだけど、どうやって頑張ればいいか分からないんだよね。それにね、どの先生も自己紹介する前から俺の事を知ってるでしょ。車椅子だから目立って当たり前なんだけど、そんな自分がすごく嫌いなんだ」
漣は心に抱えているものを一気に吐き出した。
「漣くん。自分のことを嫌いって言っちゃダメだよ。自分を好きになれない人は、他の人も好きになれないんだって。漣くんはおいら達のことキライなの?」
「大好きだよ」
「じゃあ、大丈夫だね」
優しく笑う慧を見て拓真の胸が温かくなっていく。
拓真は慧と出会ってから自分のことが好きになってきた。
慧の優しさは拓真とみんなの心を自由にさせてくれる。
父の厳しさと母の慈愛を併せ持つ慧。
いつしか、みんなの中に慧の存在が大きくなり始めてきた。
拓真はそんな慧を眩しく思うのだ。
慧の側に居るだけで、長年に渡り胸の奥に沈み込んだ深い苦しみが消え去り、代わりに楽しみを与えてくれるような気がする。
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