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漣は食べ始めた。
しかし、すぐに手を止めた。
「疲れた」
学食の慣れない箸を使ったので腕が疲れたようだ。
「しょうがないなぁ」
そう言うと元気は漣の唐揚げを1つ取った。
「漣くん。食べさせてあげるから、あーんして」
「え。恥ずかしいよ」
「学食の前で抱き合ってるほうがよっぽど恥ずかしいでしょ」
拓真の鋭い突っ込みが入った。
「ほらぁ。食べないと嫌いになっちゃうよ」
漣はみんなを見て、元気を見て、「あーん」と口を開けた。
「おいしい!」
「よし!じゃあ、これ全部食べようね」
「うんっ!」
「あーんして」
元気はまた唐揚げを食べさせようとした。
「あいしゅくん。唐揚げばっかりイヤだよ。キュウリ食べさせて」
「あっ。ごめんね」
「許してあげるよ」
この光景を、津曲さんは厨房の中から微笑ましく見ている。
そして秀人は初めての敗北感に襲われている。
自分だったら無理に食べさせない。
始業式の時もパンを買いに行くと言った。
漣の嫌がることは絶対にさせないようにしてきたが、それが漣の為にならないことくらい秀人も分かっている。
漣が再び傷くことがないようにと全力で守ってきた。
それだって本当は、傷つく漣を見たくないからであって、漣ではなく、自分自身を守りたかっただけではなかったのか…。
秀人が怖くて出来なかったことを一つずつやってのける元気。
有栖川くんには適わないな…。
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