漣と靴とおバカさん

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「あっ!タクの靴カッコイイ。見せて」 下足箱の前で拓真のスポーツシューズに興味を示す秀人。 黒地に黄色のラインが入ったノーブランドの靴だが、シンプルなデザインがお気に召したようだ。 「どこで買ったの?」 「渋谷です」 「渋谷はイマイチよく分からないんだよね」 秀人でなくとも小中学生がブラブラする所ではない。 拓真は小学校から電車通学をしていたが、それでも渋谷デビューは5年生の時だった。 もっとも拓真には渋谷よりもお気に入りの場所がある。 若者に人気のある原宿や下北沢などには、これっぽっちも魅力を感じないようだ。 「顔の黒い女がいるってホント?」 「ヤマンバみたいなのもいますよ」 「見たい!見たい!見たい!拓真くぅ~ん。案内してぇ」 「物好きですね。機会があったら案内しますよ」 「ヤッタァ~!!」 秀人は好奇心旺盛なのかマニアックなのか、ヘタレではあるが怖いもの知らずなのは確かだ。 少しでも興味を感じれば足を運んで自らの目で確かめる。 関心を抱いた事柄は徹底的に究明する。 決して有耶無耶にはしない。 この頃からベースは出来上がりつつあった。 サッカー選手を志していた秀人であったが、新聞社への道を選んだのはごく自然な流れだった。 後年、秀人は新聞記者から報道キャスターへと転身を遂げるのだが、常に現場に出向いて自らの目で状況を確認するスタンスを変えることはなかった。 名物キャスターの原点がノーブランドのスポーツシューズであったことなど、国民は誰も知らないのだ。
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