漣と靴とおバカさん

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「漣くん、有栖川くんに見られるのがイヤなの?」 慧がゆっくりと漣の前に屈みながら、優しく声を掛ける。 漣はコクンと頷いた。 「どうしてイヤなの?」 「嫌われるから」 「タクとおいらにも見られたくない?」 漣は首を横に振る。 慧はふにゃっと微笑み、漣の涙を拭ってやる。 「漣くんは、有栖川くんが好きなんだね」 漣は赤くなって頷いた。 「有栖川くんも漣くんが好きだよ。だから見せてあげなよ」 「でも…。足は手よりも気持ち悪いから…。絶対に嫌われる」 そう言うと涙目で元気を見つめる。 「漣くん。俺は、漣くんの手も足も全部好きだよ。だって漣くんが好きなんだもん。ね!!」 元気はニッコリと笑って漣の手を握った。 「絶対に嫌いにならない?」 「慧くんもタクもシューちゃんも俺も、みんな漣くんが大好きなんだよ」 漣が慧と拓真に視線を向けると、二人とも優しい表情で頷いた。 「あいしゅくん。靴、履かせてくださいっ!」 少し照れくさそうな笑顔で、いつものように甘えた声を出した。 「おっけぇ~!」 元気はそっと漣の足に触れた。 足首は想像していたほど硬くはなかったが、靴を履かせるのは難しかった。 「気持ち悪くない?」 「俺はキレイな足だと思うよ」 元気は漣の足を優しく撫でる。 「あいしゅくん。ごめんね」 「ほんと。世話が焼けるなぁ」 元気がニッコリ笑うと、漣もいつものキレイな笑顔を見せた。 「あの。漣くん。さっきから"あいしゅくん"って何ですか?バカっぽく聞こえるんですけど。まぁ、バカですけどね」 「ぷっ」 慧と秀人が吹き出した。 「タクくん失礼だよ。あいしゅくんはバカじゃないよ。おバカさんなんだよ」 今度は元気も吹き出した。 『あいしゅくん:おバカさんの代名詞。総じて有栖川元気』 拓真は生徒手帳にメモした。 10年後、拓真が作成した漣語録の"あいしゅくん"の項目にはこう記してある。 『あいしゅくん:おバカさんの代名詞。総じて有栖川元気。すでに死語。"アリバカ"の原形』
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