めざせ1等賞

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「あいしゅくん!」 元気が振り返ると漣が両手を前に出している。 「ギュウしてほしいの?」 「ちがうよ。車椅子を乗り換えるから手伝ってよ。あっ、でもやっぱりギュウしてぇ」 玄関横に設けられた車椅子用のスペースにはスロープと手摺りが設置されている。 漣はここで室内用から屋外用の車椅子に乗り換える。 「いつも俺が手伝ってたんだけど、これからは有栖川くんがやってよ」 「秀人くんそれは困るよ。あいしゅくんを待ってたら毎日遅刻だよ」 漣の容赦ない攻撃に元気は苦笑するしかない。 「有栖川さん。明日から遅刻出来ないですねぇ」 「しないよっ!」 「まっ、頑張って下さい」 拓真は明日も元気は遅刻すると確信している。 「漣くん。手摺りがあるから一人でも大丈夫だろ?」 「ヤダ!怖いだろ。秀人くんのオニ!あいしゅくん助けてッ!」 どさくさ紛れに元気の腰に抱きつく。 すると元気もギュウっと抱き返してしまう。 もはやこの2人には公衆道徳など存在しない。 「シューちゃん、どうすればいいの?」 「一回やるからよく見ててよ」 半ば呆れながら秀人が漣の前に立つ。 「サトくんとタクくんにもお願いしていい?あいしゅくんと秀人くんが意地悪したら助けて」 漣はキレイな笑顔で無邪気に笑った。 「うん。いいよ」 「はいはい」 「ありがと。それでは秀人くんお願いします」 漣の無邪気な笑顔はズルい。 秀人はそう思った。 この笑顔を自分だけのモノにしたかったけど。 (ズルイよ…漣くん) 「えー只今ご紹介に預かりましたドクター西園寺です」 「シューちゃん前置き長いよ」 「付き合ってやりなよ。漣くんを奪い取ったんでしょ」 慧が元気の脇腹を小突いた。 「君たち静かにしなさい!有栖川くん。話はきちんと聞きましょうね」 秀人は東山を真似てみた。 いつしか東山の口調が身についてきたようだ。
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