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「じゃあ。漣くん。走る練習始めるよ」
「あいしゅくん。その前に」
漣は両手を前に出す。
「50メートル走ったらね」
「頑張りま~すっ!!」
「最初はあそこの壁まで走ろうね。よーい。どん!」
漣は元気と勢いよくスタートしたのだが…。
-キコキコ
「あー!あーー!!あーーー!!!」
大きく右に逸れてコースアウト。
「漣くん、大丈夫?」
「おかしいなぁ。この道って傾いてるんじゃないの?」
見た目によらず漣は負けず嫌いだ。
「漣くん。ゆっくり進んでみてください」
拓真は何かに気づいたようだ。
-キコキコ
真っ直ぐ進む。
「傾いてないみたいですよ。次はダッシュして」
-キコキコ
今度は左に逸れた。
「ゆっくりでいいので壁まで行って戻って来て」
-キコキコ
真っ直ぐ進むが途中からまた逸れた。
「やっぱりそうだ」
「タク、何か分かった?」
「急ぐ時は右手を使ってないんですよ。長い距離も途中から左手だけになってます。だから左右のどちらかに逸れてしまうんです」
「え~!?それじゃあ50メートル走れないよ…」
漣はどんよりと落ち込んだ。
「体力測定まで2週間あるから練習しましょうね」
「ムリだよ」
「右手を補う為に左手を鍛えましょう!」
拓真のこの作戦は近い将来、大きな絶望から漣を救うことになる。
「漣くん、考え方を変えましょう。今は、ゆっくりでも50メートルを真っ直ぐに進めないでしょ」
「うん…」
「体力測定では50メートルをコースアウトしないように走りましょう」
「1位になりたい」
此の期に及んでも貪欲だ。
「でも最後まで走れたら、それが漣くんの1等賞だよ。その時はおいらたちがご褒美をあげるよ。何でもいいから一つお願い事を聞いてあげるね。みんなもそれでいい?」
「いいよ」
3人も慧に賛成した。
「よーし。頑張る!お願い事を考えなきゃね。だからギュウしてぇ」
「はいはい」
隅っことはいえグラウンド。
他の生徒の視線もある。
だが、元気と漣はお構いなしにギュウギュウと抱きしめ合う。
「あのね。そういうのは練習が終わってからにして下さいよ」
「漣くん、練習しないんだったら、おいら帰っちゃうよ」
「だめぇ!ごめんなさい」
慧には素直に従うのだが、明らかに拓真の方が逆らえないキャラだ。
「慧くんの言うことは聞くんだね」
「秀人くんもタクくんも子供だけど、サトくんはお兄ちゃんみたいなんだもん」
「はあ?」
「オジサンの間違いでしょ」
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