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3限目が終わった。
漣は車椅子を動かす。
「漣くんどこ行くの?」
「トイレ」
「俺も行く」
「いーよ。一人で行けるよ」
「一緒に行こうよ」
元気は漣の車椅子を押しはじめる。
漣の入学を機に、各階に車椅子用トイレが設置された。
車椅子で利用できる広さはあるのだが、漣は車椅子からの乗り降りが苦手なのだ。
装具を付けていた時と違い、立ち上がると身体がグラグラと揺れ転びそうになる。
元気は漣を車椅子から便座に移すと外に出て、水が流れる音を確認してからもう一度中に入った。
「こんなことまでやってもらって、ごめんね」
「気にしな~い気にしな~い」
元気と漣が教室に戻ると、3人が渋谷の話題で盛り上がっている。
「有栖川くん。俺も渋谷に行くことにしたからね」
秀人が元気に声を掛ける。
「そうなの?」
「漣くん。パテを買ったら漣くんの家に持って行くね。今夜から訓練できるでしょ」
「ありがとう。秀人くん。待ってるね」
漣はいつものように笑顔を見せる。
「漣くんは…行かないの?」
元気が探るように聞いてみた。
「やることあるから行かないよ」
そう言って元気にも笑顔を見せた。
一瞬、漣の瞳が曇ったことには誰も気付かなかった。
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