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「今からみんなで渋谷に行きましょうか?」
「ホント!?」
漣の顔が明るくなった。
「でも…。」
漣のような生まれつきの障害者は、いくら心が欲しようとも予定外の行動をしてはいけないことを身体が知っている。
それでも、みんなと渋谷に行ってみたい。
「秀人くん。行ってもいいかな?」
「漣くんはどうなの?家族の人が一緒じゃなくても大丈夫なの?」
秀人は漣と電車に乗ったことがない。
遊ぶ時はどちらかの家か公園で、たまに近くのショッピングセンターに行っただけだ。
「やっぱりムリだよね。タクくん、誘ってくれてありがとう」
漣が我慢していることくらい誰でも分かる。
負担を感じずに連れ出せる方法はないかと拓真は考える。
「漣くん。パテを貰ったお店にお礼を言いに行きましょう」
「たくさん迷惑かけちゃうよ。それでも連れて行ってくれる?」
「連れて行ってあげません。一緒に行くんです」
「タクくん。ありがと~!お母さんに、行ってもいいか聞いてみるね」
不安を残しながらも携帯を取り出す。
母が反対すれば諦めるつもりだ。
「もしもし。あのね。今から渋谷に行くから。秀人くんも一緒だよ」
電話口から漏れ聞こえる母の声。
簡単には承知してくれない様子だが、漣も引き下がらない。
「学校を出るときに行くよ。渋谷でもちゃんと行くから大丈夫だよ。うん。分かった」
「どうだった?」
「お兄ちゃんに電話して、渋谷で待ち合わせて帰ってきなさいって」
「俺いるのに?」
秀人が怪訝そうな顔をする。
母は出先でのトイレを心配したが、みんなには悟られたくなかった。
漣はわざと違うことを言った。
「秀人くんもおのぼりさんだから、信用無いみたいだよ」
「厳しいっす。とっととお兄さんに電話しろよ」
「もしもし。お兄ちゃん。あのね。……デート……桃も?分かった」
電話を切った漣はクスクスと笑い出した。
「漣くん。何が可笑しいの?」
「お兄ちゃんね、桃とデートなんだって。あいしゅくん、桃を紹介してあげるね。6時頃に渋谷に来てくれるって」
「ホント!?」
秀人に言わせるとめちゃめちゃ可愛い漣の妹。
元気のテンションが急激に上がる。
「あんまり可愛くないから、期待したらガッカリするよ」
こんなことを言ってるが、漣も桃が可愛いいのだ。
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