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「よいしょ!」
元気が漣を背負って立ち上がる。
漣はギュッと力を入れて元気にしがみついた。
「漣くん怖い?」
「ぜーんぜん」
「じゃあ下りるよ」
元気は一段ずつ慎重に下りた。
漣は元気の背中を通して伝わってくる階段の感触を感じとっている。
自分ではもう感じることが出来ない感覚を忘れないように、身体に覚え込ませているのだ。
「到着!」
「もう終わり?もっとおんぶしてよ」
「漣くん。降りてあげないと有栖川さんが重そうですよ」
「ヤ~ダ!もうちょっとだけ」
両手をギュッと握り、元気にしっかりとしがみつく。
「漣くん。人が見てるよ」
秀人は周りを見まわす。
周囲の好奇の目が漣に集まっている。
「見られたっていいさ。歩けないんだから、仕方ないじゃん」
「はいはい。漣くん分かったよ。ハチ公までおんぶしてあげるね」
「うん。ありがと~!」
漣は元気の背中に深い安らぎを感じている。
「あいしゅちゃん。ワガママ言ってごめんね。キライになった?」
元気だけに聞こえるように小さい声で話しかける。
「ならないよ」
「俺、たくさん迷惑かけるよ。ワガママも言うよ。それでもキライにならないでね。ずっと背中を貸してね」
背中を通して伝わる漣の思い。
元気には、漣の全ての感情が共鳴しているように感じられる。
歩けなくなった自分を受け入れようと葛藤する漣が愛しくてたまらない。
漣の気持ちが安まるのなら、背中ぐらいいつでも貸してやりたいと思う。
「分かってるよ。俺の背中は漣くんの予約席だね」
「あいしゅちゃん。ありがとう」
漣はお姫様抱っこに続いて、おんぶの味も覚えてしまった。
「うおっ!ハチ公だぁ!!」
秀人がハチ公に飛びついた。
「ねえねえ。みんなで写真撮ろうよ~!」
カバンからカメラを取り出す秀人。
「なんでカメラなんか持ってるんですか!?写真なんてイヤですよ」
お約束通り拓真が反対する。
「すみません。シャッター押してもらっていいですか?」
秀人は拓真の言うことなど聞いていない。
近くにいたカップルに声をかけた。
「みんな集まって~!」
「はいチーズ」
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