渋谷に行こうね

20/26
前へ
/201ページ
次へ
「今日は初めての事がたくさんできた。タクくんは一緒に行くって言ってくれたけど、やっぱり連れてきてもらったんだから、ちゃんとお礼を言わせてね。みんなありがとう」 イジメを受けていた小学校時代には、友達なんていなかった。 誰かと電車に乗って出掛けることもなかった。 この4人に出会えたから出来たこと。 漣にとって初めてづくしの経験を与えてくれた4人への感謝を、きっちりと伝えたい。 「自分で切符を買って、渋谷に来て、ハンバーガーを食べたんだね」 秀人は指を折って漣の“初めて”を数えた。 「ヘタレさん。ナンパを忘れてますよ」 「あー!!そうだったぁ」 苦い体験を思い出し秀人は撃沈する。 「タクくん。ナンパって、Hey!彼女お茶しない?ってやつ?」 「ふふっ。まあ。そんなとこですね」 拓真は漣の言い方が可笑しくて笑ってしまった。 「え~~っ!?秀人くん、いつナンパなんかしたの?」 「してないよ。漣くんがされたんでしょ!黒いのに」 「ん?タクくん。あれってナンパなの?めちゃ怖かったよ」 漣は秀人の方を向いたり、拓真の方に身を乗り出したりと落ち着きがない。 「漣くん!おとなしくしないと食べさせてあげないよ!」 こう言ってもおとなしくなるはずがないことを元気は学習済みだ。 「漣くんがカワイイからナンパされたんだよ」 慧は思ったままを口にした。 「サトくん。俺ってカッコイイじゃなくてカワイイなの?」 「華奢だし、小柄だし、顔が小さいし。カワイイのほうがピッタリだよ」 漣は暫く考えて再び口を開いた。 「俺、秀人くんよりも大きいよ」 たしかに車椅子に乗っていると、誰よりも視線が下なのでいつも4人を見上げている。 甘えん坊の性格もあるが、慧も拓真も元気も、時々、漣に対して小さい子供に接しているように錯覚することがある。 「そうだね。漣くんごめんね。小柄じゃなかったね」 慧は漣への接し方を改めようと思った。 「あいしゅちゃんがお姫様抱っこしてくれるんだったら、カワイイでもいいけどね」 そんなところがカワイイ。 みんなそう思った。
/201ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1000人が本棚に入れています
本棚に追加