渋谷に行こうね

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「ありがとうございました」 漣は丁寧にパテのお礼を言った。 そして右手を鍛える道具のアドバイスを受けた。 その店で不自由な腕を補助する道具があることを知った。 不自由でも、食事をしたり文字が書けると知っただけで心が軽くなる。 漣はスポンジ製のグリップカバーを買った。 これが最初の自助具だった。 このグリップカバーは中学の3年間使用した。 高校からは新しいタイプのモノを使うようになり、いつしか所在が分からなくなっていたのだが、10年後、思わぬ場所で発見することになる。 -ブーブー 漣の携帯が鳴る。 「もしもし。えっ!?今から…分かった」 ちょっぴり不満げな顔をして漣は電話を切った。 「お兄ちゃんたちもうすぐ新宿出るって。ちょっと早いけど、駅に連れて行ってもらってもいい?」 「その前に写真撮ろうよ」 秀人はまたカメラを取り出した。 使い捨てカメラは女子高生の間で流行している。 秀人もその流行にしっかりと乗っている。 「それよりプリクラ撮ろうよ」 元気は渋谷の真ん中で写真を撮るのが恥ずかしい。 ハチ公前で堂々と写真を撮る秀人のようには度胸が据わっていないのだ。 「両方撮ればいいじゃん」 意見が対立する元気と秀人の間を取り持つには、両方を満足させてやるしかないと慧は学習を積んでいる。 「じゃあ。俺こっちなんで」 「タク。もう帰るの?ももちゃんに会わないの?」 拓真は駅まで戻ると、田園都市線へ続く階段で別れを告げた。 「いいですよ。漣くん、また月曜日にね」 「タクくん。今日はありがとう。とっても楽しかった」 「今度は原宿に行きましょうね」 そう言うと拓真は階段下へ消えていった。 「タク。照れてるんだね」 元気が言った。 拓真の事情を知らない4人にはそう見えたのだ。  
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