1000人が本棚に入れています
本棚に追加
雨が降り出した。
桃は時計を見る。
約束より30分も早く着いてしまった。
日曜日の渋谷駅は待ち合わせの人々で溢れている。
大人達は真っ昼間から抱きついたりキスをしたりと自由だ。
見た目は大人っぽく見えても桃はまだ6年生。
刺激が強すぎる。
目のやり場に困った。
桃には一つ歳上の憧れの先輩がいる。
読書クラブのその先輩は大人びた感じだった。
落ち着いて無口。
集団よりも一人でいる事が多い。
小学生の桃から見ても窮屈そうな生き方をしているが、思慮深い利発な先輩だと思う。
先輩との出会いは1年の秋。
桃は読書感想文の課題を決めかね図書室で本を物色していた。
書架の上段に気になる本を見つけた。
桃は懸命に手を伸ばす。
もう少しで手が届きそうになった時、桃の頭上に伸びた腕がその本を掴んだ。
手の主は桃と同級生か一つ上くらいの男の子だった。
「これ?」
「はい。ありがとう」
桃は本を受け取った。
「本が落ちてきたら危ないよ。気をつけてね」
男の子は優しく微笑んだ。
-ドキッ
桃の胸がキュンと高鳴った。
その瞬間、名前も知らない先輩に恋をした。
それが桃の初恋だった。
たまに廊下で見かける憧れの先輩。
顔を見た日は幸せがやってくる。
桃の恋は小さな可愛い恋だった。
桃は憧れの先輩がいる読書クラブに入った。
実際に近くで接してみて、先輩は桃の中で膨らんだ理想よりも遥かにステキだった。
周りを寄せ付けない空気も、桃にはクールに見える。
どこをとっても良い風にしか見えないのだ。
読書クラブでキャンプファイヤーやピクニックに出掛けた。
テキパキと的確に指示を出す先輩の姿を、桃はずっと見ていた。
河辺に先輩の姿を見つけた桃はそっと隣に座った。
先輩は優しい笑みで桃を迎えてくれた。
桃は先輩に寄りかかり川の流れを眺めた。
ほのかな憧れは尊敬に変わり、そして恋へと形を変えていった。
桃は6年生になり、憧れの先輩は中学部に進学した。
幼稚園から大学までの一貫校だが小学部と中学部の校舎は別棟。
桃は思いきって中学部校舎に行ってみた。
その時初めて、先輩が他校の中学に進学したことを知った。
最初のコメントを投稿しよう!