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「桃ちゃん。お待たせ」
「あっ、先輩。お久しぶりです。呼び出しちゃったりしてごめんなさい」
「いいよ。俺も、桃ちゃんに話があったんだ」
“先輩”と呼ばれた少年はそう告げた。
少年は桃の一年先輩。
背の高さは桃と同じくらいだが、利発そうな強い眼差しのせいで大人びて見える。
桃を見る少年の目元が緩む。
1ヶ月ぶりに会った桃はまた背が伸びたようだ。
白い肌に黒目がちな大きな目。
(よく似てる。どうして気付かなかったんだろう)
「先輩の話って?」
「あとでね。今日は桃ちゃんにつきあうよ。好きな所に連れて行ってあげるね」
「ホント!?嬉しい」
桃はキレイな笑顔で頬を赤くした。
(その笑顔だよ。やっぱり同じ笑顔だ)
「先輩が良かったらでいいんですけど、井の頭公園に行ってみたいな」
「井の頭!?」
「知ってます?」
「まあね」
知らないわけがない。
だってそこには…あの人が住んでいるんだから。
「ボートに乗りたいな」
あの街はあの人に案内してほしい。
ボートはあの人と乗りたい。
「あー!桃ちゃんごめんなさい。井の頭公園は友達が住んでいて、なんて言うか、あんまり行きたくないんだよね。えーっと、ほらほら。顔合わせちゃうかもしれないしね。それに今日は雨だからボートやってないよ。また今度、晴れたら行こうね」
下手な嘘をついてしまった。
口数は少ないが、時には饒舌になることもある。
ただし、今のは失敗だった。
それでも桃は先輩の言葉を深く読み取らなかった。
「そうですね。今度行きましょうね。それじゃあ今日はプラネタリウムに連れて行って下さい」
「いいよ」
(立ち直りの早さもそっくりだ)
「わ~い。先輩大好き」
(かまわず愛を叫ぶのまで同じだよぉ)
桃の小さな初恋がようやく動き出した。
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