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「あ~楽しかった。今日はありがとうございました」
「楽しめた?」
「はい。これもありがとうございます」
桃はストラップを見せた。
「気に入った?」
「とっても!拓真先輩ありがとう」
桃は憧れの先輩の名前を呼んでみた。
「名前で呼ばれたのって初めてかもね」
「ダメですか?」
「いいよ」
憧れの先輩の名前を呼んでみたい。
それが桃の小さな夢だった。
拓真はハンバーガーにかぶりついた。
昨日もハンバーガーだった。
桃に何が食べたいかと聞けば、迷わす「ハンバーガー」と答えた。
「桃ちゃんはハンバーガーが好きなの?」
「家では食べないけど、友達と行くならハンバーガーですよ」
拓真もそうだ。
友達同士で手っ取り早く食べるならハンバーガーが一般的だろうと思う。
「桃ちゃんって、双子座なの?」
「ちがいますよ」
「え~!!じゃあどうして買ったの?」
「だって好きなんだもん」
桃が拓真に買って貰ったのは、二つの星がくっついた双子座のストラップだった。
双子座が好きなのは、もちろん憧れの拓真の星座だからだ。
「先輩。この子たちの名前を知ってますか?」
「分かんない」
さすがの拓真も神話の世界に踏み込んだことはない。
素っ気ない返事をしてしまう。
「カストルとポルックス。ポルックスは神になれたけど、カストルは人間のままなのでいつかは死ぬんです。それでポルックスは自分の不死を半分カストルに与えたんですって」
「ポルックスも死んでしまうの?」
「ハズレ。二人は1日の半分を天で過ごして、残りの半分を地上で仲良く過ごしているんです」
「仲がいいんだね」
「兄弟だから…」
それきり桃は下を向いてしまった。
暫くの沈黙のあと拓真が口を開いた。
「俺、一人っ子だから兄弟って羨ましいな。桃ちゃんは兄弟いるの?」
「大学にお兄ちゃんがいます」
「お兄ちゃんって一人だけ?」
「先輩。中学は楽しいですか?いきなりいなくなったからビックリしました」
拓真の質問に答えず話題を変えようとした。
「楽しいよ。俺、薫風に行ってるんだよ」
「聞きました…」
桃はストラップを握りしめた。
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