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「桃ちゃん…。お兄ちゃんは2人でしょ?」
ストラップを握りしめたまま、桃はコクリと頷いた。
「漣くんの妹だったんだね」
ビクッとして顔を上げた桃の手からストラップがテーブルに滑り落ちた。
拓真がゆっくりとストラップを拾い上げると、桃の手を取り掌に乗せた。
「知ってたんですね」
「まあね。昨日、漣くんを渋谷に誘ったのは俺なんだよ」
「そうなんだ」
ストラップに視線を落としたまま再び桃は黙り込んでしまった。
拓真もストラップを眺める。
次の瞬間、桃の目から涙が零れ始めた。
「桃ちゃん。泣いてるの?」
「拓真先輩には、漣兄ちゃんのことを知られたくなかったのに…」
「どうして?」
「嫌い…だから…」
涙はなおも頬を流れる。
その涙に隠された桃の本心が拓真にはまだ見えない。
「俺は、漣くんが好きだよ」
拓真は俯いたままの桃に語りかける。
「最初は、どうしてこんなヤツがいるんだ?ってビックリしたけど、付き合ってみるとカワイイんだよね」
「カワイイ?」
桃の漣に対するイメージの中に“カワイイ”と言う言葉は存在しない。
「とっても甘えん坊で無邪気なんだよな」
「漣兄ちゃんが?甘えん坊なの?」
“甘えん坊”は納得できるが、学校での様子が想像出来ない。
「そうだよ。ものすごく甘えん坊だよ。ご飯食べさせて。靴履かせて。抱っこして。おんぶして。ギュウして。一日中そんな調子だよ」
「お兄ちゃんって、イジメられてるんじゃないの?」
「小学校の時はそうだったみたいだけど、今はちがうよ。俺たちの大切な仲間だよ」
拓真は自然に"仲間"と言った。
出会ってまだ半月だが、慧も秀人も元気も漣も、みんな大切な仲間だ。
やっと出会えた本物の親友なのだ。
「桃ちゃん。俺もお願いがあるんだけど聞いてくれる?実は俺、慶明出身ってことをみんなに言ってないんだよ」
「どうしてですか?」
「サプライズ的なことでちょっとね。だから漣くんに言わないでほしいんだ」
「分かりました。二人だけの秘密ですね」
慧と拓真と桃。
小さな恋が始まった。
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