秘密

6/14
前へ
/201ページ
次へ
「桃ちゃん…。お兄ちゃんは2人でしょ?」 ストラップを握りしめたまま、桃はコクリと頷いた。 「漣くんの妹だったんだね」 ビクッとして顔を上げた桃の手からストラップがテーブルに滑り落ちた。 拓真がゆっくりとストラップを拾い上げると、桃の手を取り掌に乗せた。 「知ってたんですね」 「まあね。昨日、漣くんを渋谷に誘ったのは俺なんだよ」 「そうなんだ」 ストラップに視線を落としたまま再び桃は黙り込んでしまった。 拓真もストラップを眺める。 次の瞬間、桃の目から涙が零れ始めた。 「桃ちゃん。泣いてるの?」 「拓真先輩には、漣兄ちゃんのことを知られたくなかったのに…」 「どうして?」 「嫌い…だから…」 涙はなおも頬を流れる。 その涙に隠された桃の本心が拓真にはまだ見えない。 「俺は、漣くんが好きだよ」 拓真は俯いたままの桃に語りかける。 「最初は、どうしてこんなヤツがいるんだ?ってビックリしたけど、付き合ってみるとカワイイんだよね」 「カワイイ?」 桃の漣に対するイメージの中に“カワイイ”と言う言葉は存在しない。 「とっても甘えん坊で無邪気なんだよな」 「漣兄ちゃんが?甘えん坊なの?」 “甘えん坊”は納得できるが、学校での様子が想像出来ない。 「そうだよ。ものすごく甘えん坊だよ。ご飯食べさせて。靴履かせて。抱っこして。おんぶして。ギュウして。一日中そんな調子だよ」 「お兄ちゃんって、イジメられてるんじゃないの?」 「小学校の時はそうだったみたいだけど、今はちがうよ。俺たちの大切な仲間だよ」 拓真は自然に"仲間"と言った。 出会ってまだ半月だが、慧も秀人も元気も漣も、みんな大切な仲間だ。 やっと出会えた本物の親友なのだ。 「桃ちゃん。俺もお願いがあるんだけど聞いてくれる?実は俺、慶明出身ってことをみんなに言ってないんだよ」 「どうしてですか?」 「サプライズ的なことでちょっとね。だから漣くんに言わないでほしいんだ」 「分かりました。二人だけの秘密ですね」 慧と拓真と桃。 小さな恋が始まった。   
/201ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1000人が本棚に入れています
本棚に追加