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キッチンでは母の澪と妹の桃が仲睦まじく夕食の準備をしている。
漣はリビングのソファーに座り2人の様子を眺める。
「漣。ごはんよ」
「はーい!」
元気良く返事をすると傍らの2本の杖を取った。
「よ~いしょ~」
間の抜けた掛け声と共に杖を突いて立ち上がる。
-コツンコツン
リビングからダイニングへ、杖を突いてゆっくりと歩く。
「あっ!あーー!!!」
-バタッ
「痛ってぇ」
「漣兄ちゃん大丈夫?」
バランスを崩し転ぶことなど日常的になってしまった。
痛いよりもばつの悪さが気にかかる。
「また転んだの?困った子ね」
澪は呆れたように漣を見ると、そのままキッチンに戻った。
「お母さん。漣兄ちゃん痛そうだよ」
「好きで転んでるんだから、ほっておきなさい」
漣は杖を支えに立ちあがろうと試みるが、一度倒れてしまうと自力では難しい。
桃は漣の顔を覗き込み手を差し出す。
「立てる?」
「ああ」
そう言うと桃が差し出した手を取らずに四つん這いで進み、ソファーの背をよじ上るようにして立ち上がった。
「いただきま~す」
「はい。召し上がれ」
今夜のメニューはちらし寿司。
桃のリクエストだ。
「お兄ちゃんは?」
長男の樹は今日も夕食までに帰ってこない。
「お友達と食べてくるんですって」
「お兄ちゃん毎日遅いよね。俺も早く大学生になって遊びたいよぉ」
樹はお気楽大学生。
高校を卒業したと同時に遊び歩いている。
樹なりに忙しいのだが、漣にはそう見えるらしい。
「いいから早く食べなさい」
澪は喋ってばかりで食べ始めない漣を急き立てる。
漣は箸を握った。
握った箸で掬うように食べ始めたが、やはり上手く食べられない。
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