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「漣!!何してるの!?」
グラスをテーブルに運ぶ途中の澪に見つかった。
漣は気に留めない様子でペタペタと進み、ソファーによじ登った。
「ホンっト呆れた子だわ」
「べつにいいだろ」
「よくありません!!」
「お母さんたちが立って歩くように、俺はこうやって歩くんだよ!」
今夜は澪も漣も譲らない。
「母さん、漣を叱らないでやって」
濡れたタオルを持って樹が来た。
「漣。手を拭けよ」
部屋からリビングまで這ってきたので、漣の手とパジャマの膝下が汚れてしまった。
「ちょっと。真っ黒じゃないの。お風呂に入ったのに何やってるのよ。ちゃんと着替えなさいよ」
「はいはい」
澪は漣の扱いに手を焼いている。
漣は自己主張が激しい。
障害があるので、これくらいはっきりと自分を主張させる方がいいと考えていたが、最近では度が過ぎるように思う。
イジメを受けていた一年前は控え目な様子だったが、秀人と出会った頃からまたその兆候が現れ始めた。
「漣。後でお兄ちゃんともう一回お風呂に入るか?」
「うん!シャンプーしてね」
「いいよ」
「ふっふ~ん」
漣はシャンプーをして貰うのが大好きなのだ。
「樹は漣を甘やかしすぎよ」
澪が言うように樹も漣に甘い。
漣が元気に戸惑いなく甘えん坊ぶりを発揮しているのは樹のせいでもあるようだ。
「桃、ミックスにする!」
「えっ!ミックスもあるの?だったら俺もミックスがいい」
漣のワガママ王子が顔を出す。
「漣兄ちゃんチョコって言ったじゃん」
「ミックスがあるって知らなかったんだもん」
桃は伺うように樹を見る。
「桃。また買ってくるから漣に譲ってやりな」
「わかった…」
最終的にはいつも桃が折れる。
小さい頃からそうだった。
幼心に漣の障害を理解し手助けを惜しまない。
いじらしいほど我慢強い子だ。
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