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拓真は気が重い。
原因は土日の渋谷通いにある。
小さな秘密のハズだった。
「慧くん起きろ~!」
あの無邪気な笑顔のせいだ。
「ふわぁ~ぃ。ん?漣くんおはよー」
そして、あの人のせいだ。
「雨だよ。あーぁ。」
漣は朝から外を見ては溜め息ばかり。
「漣くん。朝から、雨、雨ってそればっかりだね」
慧も窓の外を見た。
朝から霧がかかって視界が悪い。
昼寝にはぽかぽか陽気が理想だが、まっいいか。
「雨だと走る練習出来ないでしょ」
「まだ頑張るつもりなんだね。おいら眠いや」
慧の寝顔を眺めつつ、拓真は自分の強運に心踊らせる。
ハズレだと思っていた座席だが、かなりの確率で慧の寝顔を見ることが出来るのだ。
漣の席がロイヤルシートなら、拓真の席は貴賓席なのである。
「タクくん!」
「なんですか?」
「どこで練習する?」
この様子なら、桃との関係はまだバレていないようだ。
ひとまず朝からのモヤモヤは置いておくことにしよう。
「漣くん雨降ってますよ」
「体育館とか?」
「体育館は部活で使います」
「そっか。じゃあ廊下でやろう!」
「どこまで前向きなんだか」
拓真は桃と秘密を共有してしまった。
桃と拓真の関係は誰にも知られてはいけない。
この目の前の無邪気な笑顔には絶対に秘密なのだ。
「漣くん。悪りぃ。俺今日からバスケ部の体験入部なんだ。練習に付き合えないけどごめんね」
「俺も今日からサッカー部」
元気と秀人の体育会系は今日から体験入部。
初日から雨というのがなんともなのだが…。
「大丈夫だよ。タクくんと練習するから、あいしゅちゃん頑張ってね。シューくんもね。俺も練習頑張るよ」
最近の漣は練習の鬼だ。
「漣くん、今日は練習中止です」
「え~!?や~ろ~う~よ~!!」
「無理です。廊下で走ったらお目玉くらうでしょ。雨の日は自主練しなさい」
「じしゅれん!?は~いっ!!やりまっすぅ~!」
「分かってるよね。自主練ですよ」
また何か企んでいるにちがいない。
拓真の悪夢予知器が稼働した。
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