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「そんなのって、ちょっとした企業の社員食堂なら常識なんじゃないですか?」
「あっ。そーか。タク。そーだよね」
元気は企業の社員食堂のシステムを思い出した。
「ちがうよ。アリスちゃん。企業じゃなくて学食だよ。お金かかっちゃうでしょ」
「お金?」
「それに、電子マネーってのが、学生証とか教職員証とかのICチップの付いたカードなんだよ。そうだよね?漣くん」
「うん。学校に着いてレコーダーにカードを通すと、教職員は勤怠管理、学生は出欠管理されるんだよ」
「えっ。それって遅刻バレバレってこと?代返もダメ?あっぶねぇ。セーフセーフ」
「有栖川さん。あのねえ」
遅刻常習犯の元気に呆れ顔の拓真。
元気と拓真の会話は10年経っても変わらない。
「下校時にカードを通すとコンピューターが作動して、親の携帯に知らせてくれるシステムの小学校もあるんだよ」
「すっご!ん?ねぇねぇ。もしかしてそのシステムって漣くんが作ったの?」
元気もシャンパンを飲み干した。
「そんなわけねぇーだろ」
「だよね」
お酒の入った元気はほろ酔い気分になってきた。
「しかし、大学を卒業したのに学食でランチなんて。あなたたちってどんだけ学校が好きなんですか?」
「そーなんだよね。タクの言う通りだよ。俺も、どうしてこうなったのかなって思うもん」
勉強嫌いだった元気らしい本音だ。
「おいらは成り行き上ってとこかな」
自分の人生を『成り行き上』と言ってのける慧は案外大物かもしれない。
「大好きだからだよ」
偽りのない漣の気持ちだ。
「ええ。漣くんは頑張ってますよ。頭が下がりますよ。ほんとうに。有栖川さんも偉くなっちゃいそうだし、キャプテンもしっかり先生して下さいね」
拓真が真面目な顔で言った。
「タクは卒業したらどうするの?」
「もぉー。キャプテン。嫌なことを思い出させないで下さいよぉ」
「親父さんとあんな約束するからだよ。おじいさんを味方につけるなんて悪い子だよ」
慧は呆れ顔で拓真を小突く。
「いや~ぁ。我ながら名演技でした。俺、あの時は将来俳優になろうって思いましたよ。天才子役の誕生だぁー!ってね」
拓真は愉快そうに笑う。
「約束って何?」
元気が話に入り込もうとしたが、
「タクとおいらだけのヒミツだよ」
慧にかわされてしまった。
「ぶぅー」
スネる元気を横目に、拓真はグィっと2杯目のシャンパンも飲み干した。
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