1000人が本棚に入れています
本棚に追加
/201ページ
「漣くん。冷めちゃったね」
慧はフォークを握っている漣の左手を挟むようにして自分の両手を添え、そのままゆっくりとローストビーフを刺した。
「おぉ!リーダー。サンキュー」
刺し終えると慧は手を離し、漣は自分で口に運んだ。
「ふふっ。これっていつもシュートくんがやってたよね。おいら、あんまり上手くできなくて。ごめんね」
慧は照れながらふにゃっとした笑顔を漣に向ける。
「そんなことないって。感謝してるよ。ありがと」
漣も照れながら慧に頭を下げた。
フォークやスプーンで食事をするのが漣のスタイルだ。
指が動かないのでゆっくりではあるが、姿勢を正して丁寧に食事をするように心掛けている。
自宅では、握りやすいように工夫されたグリップの太い物を使うので、不自由を感じることは少ない。
しかし、今日のように柄の細いフォークは指が震えるせいで握り難い。
そのため上手く食事が出来ない。
そんな漣をさりげなくサポートしてきたのが秀人だった。
自分で出来ることは漣にやらせて、限界になったところで出来ない部分だけを手伝うようにしていた。
学生時代に漣をサポートする秀人をずっと見てきた慧だから、今のようにさりげなく振舞えるのだ。
『上手くできなくてごめん』と言ったのも、この男らしい照れである。
最初のコメントを投稿しよう!