お受験への道-元気篇

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「うわっ。やばい!!」 カバンの中をがさごそとする元気。 「どうしたの?」 声を掛けてきたのは、右隣の席のキレイな顔立ちの男の子。 「えーっとね。筆箱忘れちゃったみたい」 家を出る時、友里から「忘れ物ない?」と聞かれたのにやってしまったのだ。 筆記具が無いとテストが受けられない。 2年間頑張った苦労が全部無駄になる。 そう思うと泣きたい気持ちになった。 「購買行かなきゃ…財布財布」 「よかったら使ってよ」 さっきの男の子が自分の筆箱から鉛筆を数本取り出し、元気の机の上に置いた。 「いいの?」 「どうぞ。赤と黒のペンも2本あるから使って。短いけど定規もあるよ。でも、消しゴムが一個なんだ。ちょっと待って」 「消しゴムなんてなくっても大丈夫だよ」 元気はそう言ったが、男の子は定規を使って消しゴムを半分に割った。 「えっ。これ新品の消しゴムでしょ。いーの?」 「いいよ」 男の子はキレイな笑顔を見せた。 「ありがとう。そうだ。俺は有栖川元気。千葉から来たんだけど、君はどこから来たの?」 「近くだよ」 「へぇ。合格したら通学ラクショーだね」 「そのつもりで受験したから」 「えっ?」 「地元の公立中学より、こっちの方が近いんだ」 一瞬、男の子の瞳が寂しそうに曇ったのを元気は見逃さなかった。 「いいなぁ。俺なんか1時間半だよ。合格したら、泊まりに行ってもいい?」 「合格したらね」 「やったぁ~!」 試験時間が近づいてくる。 (ヤバいぃ!!) 極度な緊張が襲ってきた。 (心臓がバクバクする!!) 嫌な汗が額から首筋へと流れる。 (胸が…痛いっ!!) 「もうダメ!吐きそう!」 我慢出来ずに声を上げたその時、誰かが元気の手を優しく握った。 「息を吸って、ゆっくり10数えてみて」 握られた手を辿ると、隣の席の男の子だった。 「大丈夫だからね」 男の子は優しい瞳で元気を見つめて頷いた。 元気は言われた通りに大きく息を吸い「1・・2・・3・・」と数え始める。 胸の痛みが和らぎ、落ち着きが戻ってきた。 「大丈夫?」 男の子が元気の顔を心配そうに覗き込む。 「うん。大丈夫。ありがとね」 元気に笑顔が戻った。 1限目の試験が始まった。 自分でも不思議なくらい落ち着いて問題を解くことができる。 「俺、やればできるじゃん!」 元気は自分を褒めてやりたい気持ちになってきた。
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