お受験への道-元気篇

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「友達遅いね。迷ってるのかもね?」 「そうだ!ありすがわくん。あのね。ちょっとお願いしてもいい?」 「なに?」 「あれ取って来てもらっていい?」 男の子の指差した場所にあるのはアルミ製の杖。 「あの杖?」 元気は教室の後方に向かい、2本の杖を持って戻ってきた。 「ありがと」 男の子は元気から杖を受け取ると、両腕を杖に通し、「よいしょ!」と気合を入れて立ち上がった。 元気は男の子の足を見た。 杖を支えにして爪先で立ち、右膝が内側に曲がっている。 今まで気付かなかったが、ズボンの裾から見える両足には金属製の装具が付けてある。 「……。」 男の子は元気の視線に気づいた。 「あぁ。俺ね、足が悪いんだ…。驚かせちゃった?ごめんね」 男の子はまた寂しそうな瞳を見せた。 「あ…。あ。」 元気は何か言わなければと思ったが、言葉が出てこない。 「明日は面接試験だね。また明日も会えるといいね」 「う……ん」 まだ、うまく言葉が出ない。 そんな気持ちを察した男の子は、黙って元気から離れた。 「漣くん!」 その時、誰かの声が聞こえた。 声のする方を見ると、教室の入口に背の低い男の子がいて、こちらに近づいて来る。 「どうだった?」 背の低い男の子が隣の席の男の子に話し掛ける。 「なんとか…。」 「俺はブワッチリだぜぇ!」 「良かった。じゃあ、帰ろっか」 男の子は元気の方に向き直した。 「ありすがわくん。今日はありがとう。お互い頑張ろうね」 そう言うと、コツンと杖を突き、身体を弾ませるように歩いて教室から出て行った。 元気は無言のまま男の子の後ろ姿を見送る。 男の子は左足だけで歩いている。 右足は動いていないようだ。 それが元気と漣の出会いだった。 最後にやってきた背の低い男の子が秀人である。 合格発表の日。 元気は祈る気持ちで掲示板の自分の番号を探した。 「835…835…。あった!!」 なんと元気は無謀と言われたお受験に合格したのだ。 「もしもし。母ちゃん。合格したよ。俺、やったよ!」 元気は泣きながら友里に電話をした。 こうして元気は超名門校の門をくぐり、エリートとしての人生を歩み始めた。 受験のきっかけとなった彩ちゃんは、5年生の夏休みに父親の仕事の都合で九州に転校して、元気の甘くすっぱい初恋は終わった。
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