お受験への道-拓真篇

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待合室に入り、名前が呼ばれるのを待つ。 「しまった、ゲーム機をランドセルに置いてきちゃった」 雑誌を漁ったが、OLに人気のクリニックらしくファッション雑誌ばかりだ。 「マンガも用意しろよ」 ボソッと呟く。 何もすることがないので周りを見渡す。 窓の近くのソファーで、自分と同じくらいの歳の男の子が気持ち良さそうに居眠りしている。 制服で教育大附属小学校だと分かった。 拓真の制服よりもシンプルに見える。 半ズボンから出ている足が床に届いていない。 「へぇ」 拓真は男の子の隣に座った。 すぅすぅと寝息が聞こえる。 「普通、歯医者だったら、怖くて緊張するでしょ」 拓真は男の子の頬を軽く叩いてみる。 -すぅすぅ 「ねえ。ねえってば」 揺すっても目を覚まさない。 「だめだこりゃ」 男の子は抱えているランドセルを床に落とした。 「ははっ。おもしろい」 ランドセルを拾った。 名前が書いてある。 『織作慧』 拓真は男の子の横にそっとランドセルを置き、今度は向かいのソファーに座った。 男の子の寝顔を眺める。 気持ち良さそうな寝顔を見ていると、優しい気持ちになってきたような気がする。 家でも学校でも、優等生の拓真は常に気を張っている。 本来の自分でないことは分かっているが、そうしていないと弱い部分を見せてしまいそうで嫌なのだ。 子供っぽくないといえばそうかもしれない。 しかし拓真は、それが自分を守る手段であり、自分を支えるものであると信じている。
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