お受験への道-拓真篇

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男の子が目を覚ました。 「ふぁぁ。ん?キミ誰?」 「やっと起きましたね」 「おいら寝ちゃってたんだ」 「ぐっすり寝てましたよ」 男の子は拓真の制服を見た。 「それどこの制服?」 「慶明小学校ですけど」 「何年生?」 「6年生です」 「おいらと一緒だぁ」 男の子はふにゃっと笑った。 「慶明って、スゴイね」 「べつにスゴクなんかないですよ」 慶明学園は幼稚園から大学までの一貫教育校であり、いわゆる富裕層の子供達が通う学校として有名である。 拓真はその学校の気風に馴染めない。 何が違うのかは分からないが、自分とは合わないと入学以来ずっと感じていた。 「いやなヤツらばっかりだよ」 「へぇ。そーなんだ」 男の子は、優しい顔で拓真を見る。 「おいらは、教育大の小学校に行ってるんだけど」 「制服見ればわかります」 「父ちゃんがね。薫風中学に行けって言うんだ」 「教育大も大学まで行けるんでしょ。どうしてですか?」 「大学受験のため。おいら、ここの息子だから、歯科大学に行かなきゃいけないの」 「それで、受験するんですか?」 「親孝行だよ」 そう言って、またふにゃっと笑った。 「それ、何のキャラクターですか?」 拓真は男の子の携帯ストラップを指差した。 赤青白のマリンスタイルのキャラクターだ。 「あぁこれ?横浜で買ったんだけど、キャプテン…ん?…忘れちゃったぁ。ふふふ」 男の子の笑顔に拓真は温かいものを感じた。 「あげるよ」 男の子はストラップを携帯から外し拓真に渡した。 「いいんですか?」 「うん」 「ありがとうございます」 拓真は仔犬のような瞳をキラキラさせて、子供本来の笑顔を見せた。 「新納くーん。新納拓真くーん。どうぞ」 「名前呼ばれちゃった。じゃあ」 「おいら慧。またね」 治療は短時間で終わった。 診察室を出た拓真はさっきの男の子を探したが、どこにも姿が見えない。 男の子から貰ったストラップを見つめる。 「薫風か。また会えるかもね。キャプテンサトル」
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