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「おじいちゃん。ただいまぁ」
「おぉ拓真。待ってたぞ。何が欲しいか考えてきたか?」
勇真は外出の身支度を整え拓真の戻りを待っていた。
せっかく拓真が銀座まで来たのだから、祖父として何か買ってやりたいのだ。
「あのね。新しいゲームソフトが欲しいの。それから…」
「なんだ?何でも言ってみなさい」
「僕。薫風中学に行きたい!」
「薫風…。」
勇真は困惑した。
薫風中学が名門中の名門であることは勇真も承知だ。
将来、拓真にも司法の道を歩んでもらいたいと考えている勇真にしてみれば、薫風に入学すれば夢を手に入れたも同然だ。
しかも、名門慶明で学力優秀な拓真が合格できないわけはない。
だが一つだけ薫風へのわだかまりがある。
幼少の頃から優秀だった息子の和真は難関の司法試験も現役で一発合格を果たした。
そんな和真でもたった一度だけ挫折を味わったことがある。
それが薫風中学の入学試験だった。
拓真は勇真を味方につける作戦に出た。
「僕、おじいちゃんやお父さんのような弁護士になりたい。だから、薫風に行ってたくさん勉強したいの」
拓真は上目遣いで勇真を見つめる。
勇真はこの目に弱い。
「拓真。おじいちゃんは嬉しいぞ。拓真が弁護士になりたいと言ってくれて嬉しいぞ」
そう言って拓真を抱きしめた。
受験当日。
拓真はクリニックで出会った男の子を探した。
全ての教室を確かめたが男の子の姿を見つけることが出来なかった。
試験問題は簡単だった。
成績優秀な拓真にしてみれば、難関な薫風の入試でさえも朝飯前に感じた。
自己採点では算数でたった1問だけケアレスミスをしていたが、ほぼ完璧な解答であることは間違いない。
「ふっ。俺、きっとトップ合格だ」
掲示板の前に立つ拓真。
上位合格者5名は順位と共に名前が発表されるのだ。
「どれどれ」
次の瞬間、拓真の体を衝撃が走った。
『2 新納拓真』
「2…ばん……?」
ありえない…。
一瞬でなんとも言えない敗北感に襲われた。
小学校の6年間で自分より優秀なヤツに会ったことなんてなかった。
それなのに…。
「コイツ誰なんだよ?」
自分を認めないこんな学校には入学したくない。
辞退しよう。
その時、懐かしい名前を見つけ拓真は微笑んだ。
「やっぱり、また会えましたね」
この年の上位合格者は次のようになっていた。
1 茉森漣
2 新納拓真
3 織作慧
4 西園寺秀人
5 有栖川元気
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