お受験への道-秀人篇

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壁と言えば当番表も不思議だった。 掃除当番。給食当番。 「なんだこれ?」 秀人は近くにいた女の子に声を掛けた。 「ねぇ。この水やり当番って何?」 ちょっと声を掛けただけなのに8人の女の子が集まってきた。 「花壇の水やりだよ」 「花壇?あの紫陽花か!!じゃあ、このうさぎ当番は?」 「うさぎ小屋を掃除したりエサをあげるの」 「へぇ何匹?」 「3匹」 「名前とかあるの?」 「ラビとミミとタカハシさん」 「タカハシさん?なんじゃそれ」 ザ・日本人なネーミングに秀人は笑い出した。 「だって、タカハシさんって感じなんだもん」 「ははは。あー面白ぇ。じゃあ、この…読めないや。なんとかもり君のお世話当番ってのは?」 女の子たちは互いに顔を見合わせた。 一瞬空気の温度が下がったことは秀人にも分かった。 「あれっ。俺なんか悪いこと言った?だってフツウはこんな漢字読めないでしょ!!」 秀人は漢字が読めなくて白けたのだと思った。 イギリス育ちだが漢字には自信がある。 母国に想いを馳せ、日本の文学を学んでいた。 それでも人名は読みにくい。 「それは気にしなくていいの。いないし」 「これも動物なの?えっ!?いないって、まさか、死んじゃったとか?」 「まぁね」 「へぇ。動物に人間の名前を付けるなんて面白いね」 なかなか面白い学校だ。 掃除とペットの世話が同じ並びにあるのは疑問だが、これなら卒業までの半年間楽しい思い出ができそうだ。 しかし一方で秀人は、クラスの中にある違和感を覚えていた。 楽しいのだが、どこか澱んだ空気があり、それがクラス全体を支配しているように感じられてならないのだ。
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