お受験への道-秀人篇

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転入から2週間が過ぎた。 放課後、クラブ活動を終えた秀人は教室に戻った。 誰もいない夕方の教室は静かだ。 窓際の一番後ろの席は今日も空席。 秀人はこの席に座り外の様子に目をやる。 窓から見える東京の景色は寂しく感じられる。 「空が泣いてる」 秀人はポツリと呟いた。 その時、3人の女の子が教室に入ってきた。 「そこ座っちゃだめぇッーー!!!」 3人は甲高い声をあげて慌てて秀人に駆け寄る。 声は悲鳴にも似ている。 いきなり後ろから叫び声をあげられ、秀人は背筋をビクッと震わせた。 「びっくりしたぁ。えっ。なに?」 「汚いよ」 「病気うつるよ」 「死ぬよ」 口々に3人が言う。 「えっ!?この席って誰かいるの?ずっと誰もいなかったよ…ね?」 3人は顔を見合わせ、もぞもぞしている。 「もしかして幽霊?ええっ!!!!」 秀人は顔を強ばらせ慌てて立ち上がった。 「違うわよ。入院してるみたいよ」 ようやく一人が口を開いた。 「あっ。そうなの?」 幽霊ではないと知り、ほっとした表情を見せる。 「西園寺君って、恐がりなのね」 3人は笑い出した。 「違うよ」 秀人はぷくっとスネる。 ヘタレの素質はこの頃からその片鱗を見せていた。 「とにかく。この席は座っちゃだめよ」 3人が秀人に念押しする。 「あのさ。ここの席の子って」 「口きいちゃダメよ!」 秀人の言葉を遮り、強い口調で更に続ける。 「口きいたら、西園寺君と絶交だからね!」 3人が去った教室。 「イジメか…」 このクラスを覆っているどす黒い物の正体はこれだったのか。 「なんか。イヤだな」 半年だけのここでの日々を、できるだけ平穏に過ごしたいと思う秀人だった。 平穏に過ごしたいと思っていた。 だけど……。 「いいかげんにしろよ!」 叫んでしまった。 そして、 生涯の友と出会った。
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