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季節は秋から冬に変わった。
-カツーン カツ-ン
漣の4本の足が立てる不規則な金属音。
秀人はこの音が好きだ。
「危なっかしいな」
秀人はそう言いながら、漣の隣で歩みを合わせる。
-カッ カツン カッツーン
漣と出会って3ヶ月。
最近、漣の立てる不規則な音の様子がおかしい。
歩くスピードが定まらない。
ちょっとした段差にも戸惑うようになった。
右足は曲がったまま動かせなくなっていた。
「寒いと筋肉が硬くなるし関節が痛むんだ。春になると戻るよ」
漣はそう言ったが、秀人はその日が近くに迫っていることを感じている。
「昨日ね。車椅子を予約したんだ」
「……。」
「赤のフレームでカッコイイんだよ」
秀人は、漣の右腕側の杖にぶら下がっているブタのストラップに目をやる。
不規則な歩みに合わせて左右に揺れるブタ。
漣は右側の杖を“カストル”と呼んでいる。
ブタのストラップは秀人が付けた。
店頭のポップには、『願いが叶うブタ』と書いてあった。
赤が秀人。紫が漣。
秀人は色違いのブタに願いを込めた。
ずっと。漣くんを守って!
秀人はなおも不規則に揺れるブタのストラップを見つめると小さく呟いた。
「嘘つき…」
「秀人くん?どうしたの?ぼんやりしてさ。秀人くんらしくないね」
「そんなことないよ」
秀人は笑顔を見せた。
だが、その瞳は笑っていない。
笑っていない理由を、漣は知っている。
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