お受験への道-秀人&漣篇(おまけ)

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「今日は絵の道具を買うから、一人で帰るね」 漣はそう言ったが、足はもう以前のようには動かない。 「俺も買い物あるから一緒に行くよ」 そう言って、今日も理由を作った。 -カッ カッツ カツーン 通り過ぎる人々が遠慮の無い視線を漣の足に投げつける。 「可哀想ね」 すれ違いざまに、小さな子供を連れた若い母親たちがひそひそと話し合う。 「ちょっと!ナニ言ってるんですか!?」 秀人が振り向きざまに母親たちの腕を掴む。 「秀人くん!」 「だって!!」 「気にしてないよ」 漣はそう言って笑みを見せる。 ショッピングセンターに着くと、1つだけ空いていたベンチに漣を座らせた。 漣は秀人を見上げる。 「秀人くんの方が大きいね。車椅子になったら、ずっとこんな感じなんだろうね」 「そんな話するな!!」 おもわず声をあげてしまった。 「秀人くん…!?」 「ごめん。ごめん。漣くん。ごめん…」 3ヶ月前。 もうすぐ歩けなくなると漣は言った。 秀人はあの日、漣を支えたいと思った。 支えるはずの自分が先に崩れてどうするのだ。 分かっている。 頭では分かっているのだ。 それでも平常心は、ギリギリの境界線で行き先を見失いかけている。 迫り来る恐怖に飲み込まれまいと、必死に堪える秀人の瞳から一滴の涙が零れた。 「辛いのは漣くんなのに。俺がこんな顔しちゃいけないのに…ごめん」 漣はぎこちない動作で秀人の手を握る。 握ったその手は小さく震えている。 「秀人くん…。」 手から視線を外してゆっくりと秀人を見上げる。 正面をただ見つめる秀人。 だが声の無い叫びは、握った手を通して漣の胸にも同じ痛みをもたらせた。 「秀人くん。あれ撮ろう!」 「プリクラ…?」 「俺が秀人くんより大きかった証拠を残しておかなきゃね」
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