お受験への道-秀人&漣篇(おまけ)

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2学期が終わった。 日本で迎える最初のクリスマス。 秀人は漣へ黒のニット帽をプレゼントした。 「いいねえ。漣くん、似合ってるよ」 秀人は自分のセレクトにご満悦のようだ。 「これで漣くんも英国紳士だね」 「秀人くん。ナニ言ってんの?」 秀人はたまに突拍子も無いことを言うことがある。 「英国紳士の3点セット言ってみっそぉ」 「シルクハット」 「おーけー」 「いや。ニット帽でしょ」 「2つ目は?」 「フロックコート」 「またまたオッケー」 「ダッフルコートですけど」 「最後は?」 「ステッキ」 「ビンゴォーー!」 「あのさ。カストルもポルックスもステッキじゃなくてクラッチなんだけど。しかも2本っておかしいっしょ」 「あー!かたいこと言わないの!!3つ揃ったでしょ。ねっ」 秀人は眼を細めて微笑み、漣の肩をポンポンと叩いた。 「そーだね。偽物の英国紳士だけどね」 「漣くんッ!!」 突然、秀人が漣を抱きしめた。 「秀人くん…?」 「来年も…再来年も…その次の年もその次の年も…ずっとずっとずっと……3点セットで英国紳士しろよ」 「秀人くん…。うん。英国紳士するよ」 「約束だぞ。絶対しろよ」 「するよ。約束するよ」 漣が英国紳士になったのは、この冬が最初で最後だった。 漣は翌年以降もクリスマスはニット帽とダッフルコートを着た。 しかし、“ステッキ”を手にすることは一度もなかった。
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