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他の生徒の自己紹介の間もずっと、拓真は慧を見つめている。
あなたに会いたくて、ここに来たんですよ。
早く気付いて下さい。
「次は新納拓真君」
拓真は小さく名前を書いた。
チラッと慧を見て、落ち着いた口調で自己紹介を始める。
「新納拓真です。趣味はゲームです。祖父と父が弁護士なので、僕も同じ道に進むつもりです。将来は企業間の橋渡しとなる国際弁護士を目指しています」
ソツのない挨拶をした。
拓真はここでも、自分を縛り付けるつもりのようだ。
慧を見た。
なにやら真剣な表情でノートに書き込みをしている。
拓真からは見えないが慧は漫画を描いていたのだ。
「次は茉森漣君」
「はい」
「茉森…漣!?」
拓真はこの名前を覚えていた。
合格発表で受けた人生初の屈辱はまだ癒えてないのだ。
「どんなヤツなんだ?」
拓真は漣の顔を見た。
「えっ。あいつ!?」
漣は慣れない車椅子を動かし前に出たが立ち止まってしまった。
黒板の前の教壇に上がれないのだ。
東山を見たが腕組みをして手を貸してくれる気配がない。
すかさず秀人と元気が飛んできて、アイコンタクトでタイミングを図り漣の車椅子を持ち上げた。
漣はぎこちない手つきで名前を書いた。
車椅子に座って文字を書くのは難しかった。
「茉森漣です。迷惑を掛けないようにします」
漣は逃げ出したかった。
自分に向けられる目が怖い。
なによりも東山が怖い。
この学校もいっしょだ。
来るんじゃなかった…。
漣が下を向いたその時だった。
-パチパチパチパチ
「漣くん、よろしくねぇ」
元気が溢れんばかりの笑顔で拍手をしている。
秀人は思った。
あいつ案外イイヤツかもな!
つられて次々と拍手をしていったが、一人だけ漣を冷たい視線で睨み付けていた。
「あいつ…」
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