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「漣くん。行くよ~ん」
元気はゆっくりと車椅子を押し始める。
軽快な音楽が鳴る体育館に入った。
先頭を行く漣に視線が集まる。
漣は下を向いたままだ。
校長、来賓、PTAと話が続き元気は退屈してきた。
隣を見ると慧が居眠りしている。
元気は笑いを堪え、反対隣の漣をツンツンとつついて慧を指差した。
慧に気付いた漣は少し表情を緩めたが、緊張のせいか震えている。
元気は漣の手を握った。
「息を吸って10数えてみて。なーんってね」
「ありがと」
元気の笑顔に誘われ、ほんの少しだが漣に笑顔が戻った。
「新入生代表決意。1年1組茉森漣」
「はい」
漣は下を向いたまま前に出る。
東山と男性教師2人が、漣の車椅子を持ち上げて壇上に乗せた。
会場がざわめき始めた。
漣は緊張と恐怖で震えている。
「薫風中学に入学して」
今朝、学年主任に提出した原稿は、数ヶ所の手直しを受け清書されて戻ってきた。
漣は弱々しい声で、震えと戦いながらも最後まで読みあげた。
漣を壇上から下ろしながら東山が言った。
「君は何のためにこの学校に来たのか、もう一度よく考えなさい」
こうして入学式が終わった。
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