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「あの…」
拓真が慧に声を掛ける。
「なに?」
「いやっ。あの。どこかで会ったような気がするんですけど…」
慧を仔犬のような瞳で見つめる。
「おいらもそんな気がしてたの。あっ!スイミングスクールで…違うな。どこだっけ?」
「いえ。人違いでした」
鈍感…。
思い出してくれるまで待ちますよ。
拓真は、ちょっぴり寂しい気持ちと、ちょっぴり楽しみな気持ちを味わうことにした。
今日は始業式。
ガイダンスは午前中で終了なのだが、秀人と漣は午後の時間を利用して校舎内を見て回ることにしていた。
「漣くん。学食行こうか?」
「う…ん」
まただ…。
漣はまた不安に襲われた。
大勢の人が集まる場所に出る恐怖心が体を震わせる。
「漣くん…」
秀人には何が最善なのかわからない。
環境が変わればイジメは無くなる。
知った顔がいない場所で、漣と一緒に新しくスタートできる。
秀人は信じていた。
信じたかった…。
「パン…買ってくるね」
秀人は優しく作り笑いを見せた。
「ごめん」
力なく下を向く漣。
今にも泣き出しそうだ。
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