始業式

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「れ~んくん!学食行こうよ!」 元気が脳天気な顔で声を掛けてきた。 今、一番絡みたくない相手だ。 「俺たちパンにするんだよ」 秀人は遠まわしに断ったつもりだったが、元気に通用する筈がない。 元気は漣の車椅子に手を掛ける。 「やめろよ!」 秀人が元気の手を振り払った。 「もぉ!!いくら小学校からの友達だからって独り占めしないでよ!漣くんは俺の友達でもあるんだからね!」 元気の笑顔を前に秀人は言葉が出ない。 「あっ!ねぇ。ねぇ。織作君たちも一緒に行くでしょ?」 「いや…おいらは遠慮しとく」 「一緒に行こうよ。大勢の方が楽しいでしょ」 元気は半ば強引に、秀人の隣に突っ立っていた慧と、そこにいた拓真まで引き連れて学食に向かった。 元気に車椅子を押され下を向いたままの漣。 背中に感じる元気の表情を探る。 「有栖川君。どうしてそんなに優しくしてくれるの?」 「友達だからでしょ。優しいかどうかわからないけどね」 漣は体を捻って振り返り、マジマジと元気を見上げた。 「漣くん、俺のことキライなの?」 漣は大きく首を振った。 「大好きだよ!」 「良かったぁ。実はね、小さい人が恐いからビクビクしてたの」 元気が秀人を見てクスッと笑う。 「そーだね。ちょっと恐いかもね」 漣が笑っている。 自分だけしか知らない漣の笑顔…。 自分だけに向けてくれた漣の笑顔…。 自分だけの…。 秀人は虚無感に襲われた。 ポンポンと肩を叩かれ、振り向くと慧が立っていた。 よほどひどい顔をしていたのか、慧は黙って頷くと優しく微笑んだ。 元気は漣を連れてどんどんと先に進んだ。 「パン売り場めちゃくちゃ混んでるね」 学食に到着すると、勝手を知り尽くした2・3年生でパン売り場が混雑している。 「有栖川君はパンにするの?」 「俺は、まずは定食かな。漣くんは?」 「カレーがいいなぁ。でも、有栖川君と同じがいいから定食でいいよ」 「じゃあ、俺もカレーにするよ」 ニコッと笑う元気を見て漣は思い出した。 そうだった。 つい5分前まで泣きそうになってパンにするって言ったんだった。 「ふふっ」 思わず笑みが零れる。 慧と拓真に手を引かれ秀人も学食に着いた。 「秀人くん。パン売り場が混んでるからカレーにするね!」 「ふへ。そうなの?俺は定食にするよ」 激しい脱力感が秀人を襲う。
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