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「なんで全員唐揚げカレーなんですか?」
テーブルに並んだ5つの唐揚げカレーを見て拓真が言った。
初めての学食でまごまごした彼らは、一番無難なカレーしか手が出せなかったのだ。
食券の買い方が分からなかった。
元気は上級生を真似てカレーの食券を5枚購入したが、押したボタンが唐揚げカレーだった。
そして前に並ぶ上級生を見習い、トレイを持ち、カレー、サラダ、福神漬け、らっきょう、スプーンと順に取った。
あくまでも上級生と同じものを。
元気が学食にこだわりを持つようになったのは、これが原因なのかもしれない。
「そう言えば今朝どうしたの?」
慧が元気に今朝の遅刻の理由を尋ねた。
「ふぇっ?遅刻じゃないよ。間に合ったよね?」
「有栖川さん。チャイム鳴ってましたよ。会社のようにタイムレコーダーがあったら完全にアウトでしたよ」
今の会話を聞いてかどうかはわからないが、この学校にタイムレコーダーが設置されることになるのだが、それは彼らが卒業した3年後のことである。
「電車を乗り間違えたの」
元気は口いっぱいに唐揚げを頬張りながら言った。
「電車にねぇ」
「そう言うけど、今まで東京に来るときは誰か大人と一緒だったしさ」
「これだからイナカの人は嫌ですね」
「えーー!!じゃあタクはひとりで電車に乗ってドコでも行けるの?」
「当然です。?。あの。ちょっとすみません。タクって誰のことですか?」
「なるほどね。拓真でタクね」
秀人が愉快そうに笑う。
「ヘタレに笑われたくないです」
「おい。どこがヘタレなんだよ!」
秀人と拓真は第2ラウンドに入りそうな勢いだ。
「やめなよ!みっともない」
普段無口な慧の一声は、こんな時には案外効果的である。
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