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アリスの返事にため息が漏れる。
別に上の階の奥に通されたからって必ず教唆を持ち掛けられるって訳ではないけど、出入口との距離がそのまま佐々木の信用度を現していると思う。
それから数分経ってから、イヤホンからノックする音が聞こえてきた。
「アリス」
『……はい』
俺が声を掛けると、アリスは大きな声で返事をした。それは第三者からしたら、ノックに対しての返事に聞こえただろう。
『失礼します』
慇懃な声が聞こえてきた。姿は見えなくても、馬鹿丁寧な姿も目に浮かぶ。
『初めまして、この事務所の所長をしております佐々木です』
『小川アリサです。本日はお忙しい中、お時間を割いて頂きありがとうございます』
……ちょっと畏まり過ぎか?
アリスの演技に内心ドキドキしてしまう。
まぁ、外国人の覚えたての日本語と思って貰えるかな。
それからアリスは小川アリサとして、佐々木に身の上話をしていく。
設定としては、孤児のアリサを小川という男が養子として引き受け、毎日過酷な労働をさせられている……といった内容だ。アリスの境遇と若干設定が似ているのは、その方が嘘にリアリティが出ると思ったからだ。
『成る程、毎日十八時間を越える労働……睡眠時間は四時間を切りますか……』
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